RURI(白河3-7-13)
「tsukicha drip」(432円)
「kashi boca」(1296円)
2022年2月19日(土)、埼玉県で1985年に創業した洋菓子屋「PAS DE DEUX」のプロデューサーが、清澄白河の古民家をリノベーションして、新しい洋菓子&ギャラリーショップを誕生させた。
店名は「RURI」(白河3-7-13)。
お店は都営大江戸線清澄白河駅から徒歩3分の場所にあるが、少し意外な立地だ。
清洲橋通り沿い、「コリほぐし白河店」「スナック サンメーク」「中華 洋食 ことぶき本店」が並んで入居している白河3丁目の建造物は「寿荘」という名前が付いている。
よく見ると「中華 洋食 ことぶき本店」の外壁に、A4の紙が2枚。そこに小さくお店への行き方が描かれている。こんなとこ、普通見ないよね。建物の横の壁にも、何箇所か同じものが貼られていた。
寿荘のちょうど真裏に小さな駐車場があるが、寿荘とその駐車場の間に、幾度か増築を繰り返したかのような、少し違和感を感じる建物がある。お店はそこらしい。
お店への入り方も一筋縄ではない。建物正面に向かって左手の引き戸がある玄関のように見えるものは、実は入口ではない。古ぼけたすりガラスの引き戸にはヒビが入っているし、開けられるのを遮るかのように、細い看板が立てられている。
なんだここは、と、途方に暮れて右手を見ると、かろうじて大人が一人通行できるような通路。いや、これは本当に通路なのか?単に建物の周囲に生じた隙間なのでは?と、戸惑いながら奥まで進むと、突き当りにA4の張り紙が三枚。右手は真新しい板塀と柵、左手には黒い壁。詰んだ…。
いや、黒い壁かと思ったものは、巨大な引き戸であった。果たして、恐る恐る引き戸を開けると、ようやく右手奥にお店の片鱗らしきものが見えた。
1Fは洋菓子店らしい。コンクリート打ちっぱなしの壁と木材の壁が、多分、古民家のそれを生かしたまま使用している天井と組み合わさり、不思議に落ち着く空間となっている。
手前には、これもコンクリートのディスプレイ台、右奥にガラスのディスプレイ、左手奥は商品棚だ。右奥の暖簾の先はスタッフルームになっている。
店内をうろついていると、階上から物音がしてスタッフが降りてきた。極度の対人恐怖症なので挙動不審になりながらもご挨拶。少し話を聞くことが出来た。
海の青、空の青、宇宙の青、わたしたちの身の回りには様々な青が存在する。「わたしたちは”あお”とともに生きている」をテーマに、「PAS DE DEUX」のスタッフたちが、豊かで軽やか、しなやかで新しい生き方を模索するために始めたプロジェクトの具象のひとつが、このお店であるとのこと。
新しいコトを始めるにあたり、伝統と文化を重んじる精神も大切にしたいとのことで、スタッフは華美過ぎないトラディショナルな着物を着こなし、店内の内装もモダンなデザインでありながら和を基調とし、製造・販売している菓子やお茶の素材や使い方にも日本の伝統的な思想背景をベースにしている部分がある、という徹底ぶり。
例えば、店内では、埼玉県東大宮で狭山茶専門店「岡野園」を営む三代目岡野尚美さんが調茶した、限定のブレンドティー「tsukicha drip」(432円)を販売しているが、これは埼玉県産のほうじ茶に、鹿児島県産の金柑、大阪府産の松葉をブレンドしている。よく知られているように、金柑は「代々の繁栄」、松は「永遠の命」を表し、古来より縁起物として扱われてきた。新しいお店の開店時にこれほど相応しいブレンドは無いなあ、さすがだなー、と視線を横に振ると、お店の一番奥に青々とした松の木が飾られていてハッとなる。この商品と伝統と思想とデザインがシームレスに繋がる一連の流れが、とても気持ちの良い体験として客の記憶に残る、という算段だ。
こうした細かい配慮は至るところにあり、2階はギャラリースペースになっているのだが、ちょうどお店を訪れたときに2階では事前打ち合わせが行われていて、一般の客は入れなかった。ふと見ると、2階に繋がる階段の三段目あたりに、ゴロッと小さな岩が置かれている。ここでは、主張が強すぎて野暮な「立入禁止」の札やロープなんか使わないのだ。
この岩はいったいなんだろう?と客に思わせることで、そこに躊躇が生まれる。その躊躇を小さな岩は無言で肯定する。
とにもかくにも、ここは洋菓子屋さんだ。オススメの菓子を尋ねると、紹介してくれたのは、限定の「kashi boca」(1296円)。「PAS DE DEUX」のシェフjunko murakami氏の「作品」である。
高知県黒潮町では江戸時代から続く伝統製法から生まれる入野砂糖が有名だが、サトウキビ汁を煮詰めて砂糖に「上がる」前にとれる蜜砂糖を「ボカ」と言う。この「ボカ」にブランデーをカクテルしたソースを、伊予柑、ぽんかんをセミドライにしてダックワーズ生地で焼いた焼菓子にかけて食す。土台はカスタードとアーモンドクリームのミックスに、いよかんのコンフィチュールを入れて焼き込んだタルト台。
購入してさっそく家で頂きましたが、お店のイメージとピッタリで、入野砂糖の伝統製法を尊重しながら異世界アイテムとなっている、非常にレベルの高い洋菓子ですよ。是非トライ、オススメ。
おそらく、今度、新しいお菓子もどんどん生まれるだろうし、二階のギャラリーも見てみたいし、これからの展開が非常に楽しみなお店です。
現時点では土日のみのオープンで、営業時間は12:00~18:00となっています。ご注意を。
新しい情報はInstagramとWEBサイトで公開していくとのことで、リンクを貼っておきます。
https://www.instagram.com/ruri_pasdedeux/
https://ruri-pasdedeux.com/
普段は足を踏み入れない高級洋菓子店。こ汚いオヤジが長居をする場所じゃないなー、と早々に退散させていただきましたが、面白いお話を聞けて大変楽しかったです。ご丁寧に対応していただき、誠にありがとうございました。