北砂・カルアジャア・エスプレッソ「タジャ」

グルメ

前置きが大変長いです。すいません。

「南砂一丁目」が白河四丁目から南砂一丁目に引っ越してきたのは、今から5年前、2018年の4月、暖かいそよ風が心地よく感じられる春の季節でした。

自宅の周囲の雰囲気も窓から見える景色も一変し、荷物を整理したり新しい家具を迎え入れたりと慌ただしい生活が始まった頃、ある日、換気のために開け放した窓の向こうから、この世のものとは思えない尋常ならざる芳香が漂ってきました。

「ほろ苦くも甘く感じるコク深い魅惑的な香り」は、これまで嗅いだことのない特徴があり、しばらくしてからようやく「あ、これ、珈琲豆の焙煎の香りなんだ」と気づきました。

南砂一丁目の「どこからともなく漂ってきてほしい香り」ランキング第一位である「珈琲焙煎の芳香」が、その後定期的に新アジト周囲に漂うことに気づき、引っ越してきて良かった理由がさらに増えた!と大喜びしました。ちなみに「どこからともなく漂ってきてほしい香り」第二位は「焼き立てのパンの香り」で、第三位は「夕飯時のご近所さんのカレーの香り」です。

引っ越しの荷物が落ち着いてから、その芳香がどこから来ているのかを南砂一丁目一帯を歩いて探し回ったことがありましたが、当時は喫茶店を始め、それらしいお店が周囲にまったく無く、香りの元を探し出すことはできませんでした。

足で探すのは諦めてネットを根気よく探してみると、以下の記事がヒット。

エスプレッソ焙煎・ノリヨシミローステリア [カフェ] All About
下北沢のBEAE POND espressoのコーヒー豆は、気鋭の焙煎士・吉見紀昭さんが手がけています。哲学もファッションも、今までに出会った焙煎士とは異なる個性的な彼に、真剣で熱のこもったお話をうかがいました。

わー!これじゃ!なるほど!芳香の元はスペシャリティコーヒー豆エスプレッソ専門焙煎所「Nori Yoshimi Roasteria」さんであったか!しかし、記事内には、そこで焙煎された珈琲豆に会えるお店の情報も掲載されていましたが、「個人客への小売はしない」と書かれており、非常に残念と思ったのを憶えています。※記事には書かれていませんが、開所当初は一般のお客様にも対応していて、その後、完全予約制となり、最終的には業務販売のみとなったようです(情報元:アメブロ)。

でも、アジトの窓から直接見ることが出来て、以前から怪しいと思っていた時折稼働している煙突が「Nori Yoshimi Roasteria」さんのものであることも特定できて大変満足しました。

また、オールアバウトジャパンの記事に書かれているNori Yoshimi氏が持っているエピソードや考え方が、どれも非常に魅力的で、修行僧のようにひたむきにエスプレッソ魂を磨き続ける氏の話が記憶に刻まれました。

それからというもの、窓の外に煙が見えると「ほろ苦くも甘く感じるコク深い魅惑的な香り」をアジト内に招き入れるために窓を開けるようになり、その度に、いつかどこかで「Nori Yoshimi Espresso」を飲みに行きたいなーと漠然と考えるようになったのです。まあ、漠然と思うことは大抵すぐには実現しないものです。本当に行きたいのならその場でガッと行かないとね。

「ほろ苦くも甘く感じるコク深い魅惑的な香り」はいつも焙煎作業が終了すると、たちまち周囲から消えてしまい、果たして本当にそんな香りがそこにあったのかさえ分からなくなってしまうので、都度、大変寂しい思いもしていました。

さて、話はさらに遡りますが、ここ数十年の範囲での江東区最大のトピックと言えば、2000年に都営地下鉄大江戸線開通と共に開業した「清澄白河駅」(白河1-6-13)周辺の開発と発展とブランド化がビッグバンのように始まったことです。

その後、しばらくして、とある特殊な「流れ」が始まります。

2012年に焙煎所が併設された「The Cream of the Crop Coffee」(白河4-5-4)がオープン。続く2013年に、これも店内に焙煎機を備えた「ARiSE COFFEE ROASTERS」(平野1-13-8)がオープンした後、2015年2月6日に「ブルーボトルコーヒー 清澄白河」(平野1-4-8)がオープンしてからは、怒涛の「実は清澄白河は珈琲の街で御座いました」ブームが到来して、多くのカフェが乱立しました。ちなみに2015年にはブルーボトルを含めてなんと8店舗が新規オープンしています。

めちゃ脱線するのだけれど、2000年以降の清澄白河駅周辺で昔からあるカフェの筆頭は「SILK RIVER Y&M」(白河2-10-3)さんで、旧店名は「First Gate」。2004年7月の開業です。文字通り清澄白河カフェワールドの「First Gate」になったお店ですね。

という流れの中、まあ、おいしいコーヒーを飲むなら清澄白河あたりでしょうな的な空気が急速に醸成されて一旦落ち着き、しばらく経った2022年、清澄白河中心地外の地域に、スプロール現象のように新規カフェと焙煎珈琲豆の波がやってきました。

主な新規カフェとしては、2022年6月「砂町珈琲」(南砂1-9-7)、「PARK STAND TOKYO」(平野3-1-12)、2023年5月「ATER Tokyo」(大島9-10-6)、2023年10月「goodcoffee」(南砂2-5-1)、「Maison」(猿江2-13-1)、2023年11月「TRI-Tech TOKYO」(森下5-19-18)など。

焙煎所併設のカフェとしては、2022年7月「iki Roastery & Eatery」(常盤1-4-7)、2022年11月「MONNAKA COFFEE」(門前仲町2-6-11)、2023年7月「焙煎工房 豆hachi」(木場6-10-5)、2023年10月「1.414 Coffee Roastery」(扇橋2-21-7)が新しくオープンしました。

そして、満を持して2023年11月17日(金)「Carruatge ESPRESSO」(北砂3-1-35)がプレオープン!しかも、エスプレッソやカフェラテなどのストレートなメニューはもちろんあるのですが、エスプレッソを最大限に楽しむことのできる「タジャ(Tallat)」や「コルタド(Cortade)」をメニューのトップに載せての登場です。

なんで長々とこれを書いているのかというと、この一連の流れ、非常に興味深い歴史の波のようなものだと、個人的に考えて、整理して記録しておこうと考えたからです。

Nori Yoshimi氏は江東区の出身です。氏が2008年に開業したスペシャリティコーヒー豆エスプレッソ専門焙煎所「Nori Yoshimi Roasteria」が生み出してきたエスプレッソ豆は、二子新地「55 Cafe」や下北沢「BEAR POND」で使用され、日本のエスプレッソシーンに多大な影響を与えてきました。その都心の流行最先端のお店から発せられた波が、アメリカ発祥のサードウェーブの波とも共鳴し、今日の日本における珈琲界隈が出来上がっているような気がするのです。強い波が反響し合い、形を変えて発信地に戻ってきたみたい。色々とこじつけですが、Nori Yoshimi氏は江東区が世界に誇ることのできるエスプレッソロースターでありバリスタでもある存在の先駆けである、というのは紛れもない事実です。

では勝手に分かる範囲で氏の経歴をまとめておきますね。怒られるかな。

Nori Yoshimi
2005年12月、バリスタ世界チャンピオンのPaul Bassett氏のエスプレッソカフェ「Paul Bassett」に入社。2年間チーフバリスタとして活躍(2008年11月15日「Paul Bassett 自由が丘店」が最終勤務店)。2008年、スペシャルティコーヒー豆エスプレッソ専門焙煎所「Nori Yoshimi Roasteria」(南砂1-9-15)開業。2023年、11月17日(金)にプレオープンしたエスプレッソカフェ「Carruatge ESPRESSO」(北砂3-1-35)の生豆剪定、焙煎、抽出を監修。自らも店に立ちバリスタを務める。

さて、ようやく本題です。

「Carruatge ESPRESSO」(北砂3-1-35)さんのプレオープン情報はもちろん事前に知っていたのですが、少し風変わりなお店だな、程度の認識でした。エスプレッソに興味はあったので、こんなポストもしてました。

南砂一丁目活動ファイル「そのうち行くリスト」に記載していたのですが、ある時、「Carruatge ESPRESSO」さんの公式Xアカウントがこんなことをポストします。

NORI YOSHIMI…どこかで見た名前…ぎゃー!南砂一丁目に漂う「ほろ苦くも甘く感じるコク深い魅惑的な香り」を醸成した主ではありませんか!なんと「Carruatge ESPRESSO」(北砂3-1-35)は氏の監修店でありました。実は氏は昔、「70歳になったら自分のカフェを開いてバリスタをする」と宣言していたのですが、こんなに早く実現するなんて!超歓喜!

ということで、わたくし南砂一丁目は、遅ればせながら、本日、非常に緊張しながらお店を訪問させていただきましたよ。

まるで通りがかりに初めてお店に気づいたかのようなフリをして店頭のメニューを眺めていると、なんとNori Yoshimi氏自らがわざわざ入口まで出てこられ、応対していただきました。畏れ多いわ。御本人ですよね?間違っていたらすいませんw

店内はカウンター席5席。中央にはピッカピカのLA・MARZOCCOのセミオートエスプレッソマシン「Linea Classic S-2」と、グラインダー「VULCANO」がドーンと置かれています。

ここに「はしたない」ことを書くので文字を小さくしておきますが、「Linea Classic S-2」が300万円越え、「VULCANO」が70万円弱ぐらいですね。余談ですが、初期の「Nori Yoshimi Roasteria」には「Vibiemme」のマシン(高くても70万円ぐらい)に「Mazzer」のグラインダー(高くても30万円ぐらい)が置かれていたとのこと。当時の氏のブログには「MARZOCCOと比べるとあらゆる面で安定していないが、勉強になる」と記されています。人に歴史ありですね。

こちらがプレ・オープン期間中のメニューです。

Take out ok !!!
ALL \500- TAX included
Tallat(タジャ)
Cortade(コルタド)
Espresso(エスプレッソ)
Macchiato(マキアート)
Cappuccino(カプチーノ)
Cafe latte Hot/Iced(カフェラテ ホット/アイス)
Americano Hot/Iced(アメリカーノ ホット/アイス)

しばし、メニューを眺めた後、「タジャとコルタドって…なんですか?」と質問。

氏は、下記のインスタを見せてくれながら説明してくれました。

頂いた説明を補足して要約しますが、「タジャ」は小さいグラスにエスプレッソを注ぎ、少量のスチームドミルクを乗せて敢えて撹拌しないもの。写真のミルクの上に散っているのは恐らくエスプレッソの濃いエキスで、表面を啜ってエキスとミルクとエスプレッソの割合を変化させて楽しむことも出来ます。表面の濃いエキスは啜った側に移動するため、グラスの吸口の場所を変えると新たにミルクの割合が増えたりし、啜り方や経過時間などによっても味や香りの変化を楽しむことが出来ます。エスプレッソのエキスを表面に散らす技法は他では見たこともないので、恐らく氏ご自身が考案された仕掛けです。すごいでしょ。エスプレッソを突き詰めていくとこのような境地に行き着くのよ。楽しいでしょ。

これに対し「コルタド」は、エスプレッソに少量のスチームドミルクを入れたものです。

いうても素人なので、新しく見る風景や情報量にクラクラしながら、初訪問の固定儀式通り「タジャ」を注文。こちらです。

感想は書きません。とにかくご来店ください。めくるめくエスプレッソワールドが貴方をお待ちしています。敢えて一言だけ書いておきますが、極上のエスプレッソは甘美な極上の酒にも等しい存在です。酔えます。

メニューにはCoffee Beansの記載もあったため、勢いで豆200gも注文。グラインダーの中にあった豆をそのまま出してくれたので、正真正銘、お店の珈琲豆です。

豆購入もあったので早々にレジ前で精算することになり、自然に退店となりましたが、もう少し席にいたら追加でオーダーしていたはず。逆に良かった。エスプレッソに溺れるところだったので危なかった。

豆を受け取るとき、「実はエスプレッソマシンを持ってないので、普通にハンドドリップでも良いですか?」と聞いたところ、大丈夫であることと共に、昨日焙煎したものなので、あと1日経った方がいいかもしれません、とありがたいお言葉。さらに氏は眼の前で少量の豆をグラインダーでざっと挽いて「今購入した豆の香りを嗅いで、この挽いた後と比較してみてください」とこちらに差し出してくれました。

豆は普通のお店レベルの珈琲豆の香り。続いて、挽いたものを嗅いでみます。驚いたことに、豆そのものを嗅いだ時とはまったく異なる、甘く複雑で美味しそうで強烈な香りに襲われます。

「これが、この焙煎豆の特徴です。面白いでしょう」

なるほど、確かに。挽いた瞬間に別の存在に変化したかのようです。感動。

しかし、その直後、氏には伝えませんでしたが、微かに、しかし強く沸き起こった別の匂いを、確かにそのとき感じました。それは、あの、時折南砂一丁目一帯に漂う「ほろ苦くも甘く感じるコク深い魅惑的な香り」。

焙煎作業が終了すると、たちまち周囲から消えてしまい、その都度寂しい思いをしていましたが、もう、大丈夫なようです。

ごちそうさまでした。また来ます!