造形作家 松本哲哉氏のパブリック・アート@江東区

名所

GOMBESSA(森下3-1-3)

オブジェクトネーム:GOMBESSA

オブジェクトクラス:Safe

設置プロトコル:「GOMBESSA」は、昭和60年から64年度にかけて江東区の橋を環境全体と美しく調和させ、快適で親しみやすい水辺空間を創出することを目標として、江東区の土木部道路課が計画・実施した「うるおいの橋づくり」の一環として造形作家の松本哲哉氏へ製作依頼され、1990年3月に小名木川に架かる西深川橋の橋台敷きに設置されたコンクリート製のオブジェです。西深川橋は1923年9月1日に発生した関東大震災後の帝都復興事業の一環として1930年に竣工され、1983年に改良工事が行われました。

説明:このオブジェは高さ約2m、全長約4.5m、総重量約200kgで、鋭い歯を持つ口を大きく開け、小名木川に頭を向けて設置されています。「GOMBESSA」はマダガスカル島近くのコロモ諸島の現地語で「食えない魚」「使えない魚」を意味する「シーラカンス」を指す言葉です。「シーラカンス」は約6500万年前の5回目の大量絶滅期(K-Pg境界)に絶滅したと考えられていましたが、1938年にアフリカ東海岸沖で発見され、当時「生きた化石」が発見されたと世界的に話題になりました。サマンサ・ワインバーグ著「A Fish Caught in Time」という本には、シーラカンスは大きな輝く目を持ち、皮膚は濃い青色で曇った白い斑点がまだらになっていると記述されています。現地民の間では食べることも出来ない役に立たない魚とされていたにも関わらず、捕獲すると学者や好事家に高値で買い取られたことから「幸せを呼ぶ魚」と呼ばれました。このことから、周囲の住民からは親しみを込めて「幸福の魚」と呼ばれることがありますが、当該オブジェに「幸福の魚」という別称が正式に付いているわけではありません。


HANEKAME’92(亀戸2-21-9)

オブジェクトネーム:HANEKAME’92

オブジェクトクラス:Thaumiel

設置プロトコル:「HANEKAME’92」は、1992年に行われた亀戸駅前広場公園の改修工事の際、造形作家の松本哲哉氏が製作して公園中央に設置された羽のついた三匹の亀の噴水です。下から親亀、子亀、孫亀の順に重なっていて、一番上の孫亀の背中から定期的(1日4回程度)に水が噴出しています。台座、周囲の池も亀の甲を模した六角形にデザインされています。造形に亀が選ばれたのは「亀戸」の地名から。羽が付けられたのは「亀戸地区が未来に向かって羽ばたくように」という意味が込められています。また、このオブジェは江東区に設置された四神オブジェのひとつの「玄武」であるとされていますが、これは後付けで、その設定が加えられました。

説明:このオブジェは高さ約3mで、一番下の親亀は大地にしっかり四肢を踏ん張り、その上の親亀は前足が宙に浮くほどの羽ばたきをしている様が表現され、一番上の孫亀は東の空に向かってまさに飛び立とうとする姿が造形されています。亀は古くから長寿の象徴とされ、甲羅が小判などお金の形に似ていることから金運も招くとされています。また、明治時代の流行歌「ラッパ節」に「親亀の背中に子亀を乗せて そのまた背中に孫亀乗せて そのまた背中に曾孫を乗せて 親亀こけたら皆こけた」という歌詞があり、製作者の現代社会に対する皮肉も込められている可能性があります。


Persona 抄(塩浜2-21)

オブジェクトネーム:Persona 抄

オブジェクトクラス:Archon

設置プロトコル:「Persona 抄」は、昭和60年から64年度にかけて江東区の橋を環境全体と美しく調和させ、快適で親しみやすい水辺空間を創出することを目標として、江東区の土木部道路課が計画・実施した「うるおいの橋づくり」の一環として造形作家の松本哲哉氏へ製作依頼され、1993年3月に汐浜運河に架かる南開橋南詰め東側に設置されたコンクリート製のオブジェです。「Persona」は、仮面や仮想像という意味で、人間の外的側面、内側に潜む自分を表し、「抄」は、長い文章などの一部を書き出すこと、古典などの難解な語句を抜き出して注釈する、という意味です。このオブジェには、松本氏による以下のようなキャプションが添えられています。

美しき 青き星の創生のドラマは魅惑に満ちている
月 海 生命 進化
極に向かうPersonaの古代神話と人の在り方への戒律と示唆
進化論的倫理に思いを馳せ
有翼のimageを展開する

説明:このオブジェは全長約6mで、高さも約6mに設置されています。製作者の松本氏によると、その高さに設置したのは、南開橋の上から見たときの驚きが狙いとのこと。また、胴体から生えた両手で支えられている頭部の仮面は国籍不明なデザインとし、オブジェ自体は「分かりやすく云えば、想像上の海中生物で、生命体が海中から時間をかけて陸に上がり、進化していく過程を、イメージしたもの」としています。その造形の特異さから、周囲の住民からは親しみを込めて、1990年にブームとなった「人面魚」や、1999年に発売されたテレビゲームに登場するキャラクター「シーマン」と呼称されることがあります。


造形作家 松本哲哉氏
1935年東京生まれ。現代社会にアンチテーゼを唱えると共に「自分の生き方其の物」を表現した頑強な作品を造り続けてきたが、生み出される作品群にはどこかしら愛敬があり、町なかに設置されたパブリックアートは深く土地に馴染み、住民の人々に親しまれ続けている。

プロフィール
1935年 東京生まれ
1968年 前衛グループPELO結成、銀座ルナミ画廊にて第1回展を開催(1988年まで5回開催)
1970年 錯誤’70連鎖展(サトウ画廊/銀座)・集団展(横浜市民ギャラリー)
1976年 千葉76展結成、千葉’84展まで継続(千葉県立美術館)
1979年 埼玉美術の祭典(埼玉県民ホール)出品
1982年 エンバ大賞展出品
1988年 ひらかれた房総展(ギャラリーみやこ/千葉)出品
1990年 「GOMBESSA」製作・発表、東京都江東区森下3-1-3に設置
1992年 「HANEKAME’92」製作・発表、東京都江東区亀戸2-21-9に設置
1993年 「Persona 抄」製作・発表、東京都江東区塩浜2-21に設置
1956年以降個展・グループ展を東京、千葉、他県にて数10回開催